
10月12日、台風19号と共にやってきた黒い物体。

台風19号がやってくる数日前にここら辺で黒い猫を見たと父親から聞いた。それなので餌を置いてみた。

台風が去った後の朝、ここの餌が空っぽになっていた。ちなみに来て直ぐの黒猫の写真は無い。
1日、1メートル。顔も見せない忍び猫を玄関まで引き寄せる作業。

ついに現れた。
カラスや鳥や幻想じゃなかったんだな。
本当に猫だった。
猫だったものの、祖母、父親、俺で手懐けようとしても触れないどころか近付かせてくれない。「人に懐かない猫だ」祖母が言っていた。
二ヵ月が経った。もうそろそろ生後半年くらいになるのだろうか?母猫とはぐれた線が濃厚だなとなんとなく思った。
お腹が大っきくなって子供を産んでしまったら大変なので避妊手術をしなくてはと思っていた。鳴き声からしてメスだろう(後にオスだと判明する)。
家の玄関の中におびき寄せ、強制捕獲を試みる。……家の中の障子がボロボロになっただけで、暴走する黒猫になす術なく逃げられた。
そしてまた一ヵ月が経過した。

ウチの庭から撮った。垣根の上に佇む黒猫(首髭が白いヤツ。小さいけど見えるだろうか?)。死神に見えなくも無い。
この時の祖母の一番の楽しみは、この黒い猫に声を掛ける事だったと記憶している。
この写真を撮った時も、祖母が黒猫に声を掛け、嬉しそうに喜んでいたのを覚えている。
最後に触らせてあげられれば良かったけど。
そう、これは祖母が命の灯火が消える12時間前の写真。
そして、十二月四日の早朝。祖母は亡くなった。

突然にして心臓が止まった。突然死。
最後に祖母の元気な姿を見たのは、垣根の上にいる黒猫に声を掛けている絵だった。まさに黒猫が垣根の上にいる写真の時だった。
お通夜、告別式が無事に終わる。

そして更に二ヵ月が経った頃、黒猫は真冬の極寒の中から富山家によって救助された。
黒猫だから名前はクロ。祖母がいつもクロ、クロと呼んでいた。
祖母の記憶は今でもクロと共に残り続ける。
生前の祖母と今生きているクロは切っても切れない関係になった。

今ではこんなに大きくなってしまったけれど。
おわり。